戸田 宗輝さん お店を通して人を育て、街をつくる

小名浜の本町通りからちょっと入った通りに「ん?  ここなんだろう? 」と思わず入ってみたくなるような不思議なお店があります。お店の中に入ってみると老若男女様々な人がいて、それぞれ思い思いにおしゃべりをしたり、古着を眺めたり、パソコンで作業をしたり…もはやだれがお客さんでだれがスタッフなのかもわからないような不思議な空間。この不思議なお店・ALAYAを作ったのはいわき出身の戸田宗輝さん。東京のアパレルショップで12年働いた後いわきに戻ってALAYAをオープンさせたそう。なぜ小名浜のこの場所にお店を作ったのか? 「なんだろう? ここって思わせたい」という戸田さんの真意を伺いました。

 

取材・文・写真/久保田 貴大(ヘキレキ舎)

 

戸田 宗輝さん 
お店を通して人を育て、街をつくる


 

―まずは、戸田さんのお店、ALAYAについて教えてください。

このお店は2018年の9月にオープンしました。現在はビルの1階に古着とカフェを併設しており、15時から24時までオープンしています。現在は僕のほかにスタッフが3人いて、お店を回しています。実はこのビルの2階も今借りていて、飲食店や本屋をオープンする予定なんです。

 

―ALAYAというお店の名前の由来は?

仏教用語に阿頼耶識(アラヤシキ)という言葉があって、そこから名付けました。「見る」とか「聞く」とかの知覚を表す8つの「識」という概念が大乗仏教にあるんですけど、そのうちのひとつで、すべての「識」のベースにあるのが阿頼耶識なんです。

そして、阿頼耶識は見たり聞いたりしたものをため込んでおく”蔵”という意味もあるみたいで、そこにいろんなものをため込むことでどんどんベースが広がっていって、見たり聞いたりするものが豊かになっていくらしいんです。そういう根本的なものがあれば、そこからいろんなアイディアを出したり、人に知識やモノを分け与えたりできる。みんなが安心してそういう場所にいることができればと思って、この名前にしました。

最初は~屋さんのアラヤっていう捉え方もできるし、聞いたときにはこのお店が何なのかちょっとわからないような名前ですよね。そういう想像がつかない名前がよかったんです。「なんだろう? ここ」って思わせたかった。先入観を持たせたくなかったんです。

 

お店に入るまで、「なんだ?ここ」の答えはわからない(写真提供:ALAYA)

 

―そういえばALAYAのインスタグラムやホームページを見ましたが、ほとんど情報が載ってないですよね。あれも「なんだろう?ここ」と思わせるためのものですか?

そうですね、一応インスタグラムやってますけど、ストーリーズで街の風景や気になったものを上げるくらい笑。でも、発信しないことすらもブランディングにできたらと思ってて。「来ないとわかんないよ」っていうスタンスで興味を湧き立てるのもブランディングだと思ってます。それで来てみたらカフェがあって古着も売ってるという空間がある。

そうやって2年間お店をやってきました。よく続いてるなって思ってはいるんですけど笑。最初は知人が「こんなお店あるよ」って口コミでどんどん広げてくれたんです。そうすると、純粋にこの場所が好きで来てくれるお客さんばかりになりました。そういう人たちが何時間もここにいてダラダラしゃべって帰るというような空間ができて、それがすごく幸せなんです。

 

お店はカフェと古着屋が共存した空間になっている

 

―ALAYAを開くまではどのような経緯があったんですか?

僕は大学までずっと地元にいたんですよ。いわき明星大学(現在の医療創生大学)っていうところに通っていました。で、就活は全然しなかったんですけど、漠然とアパレルやりたいなって思って東京に行ってアパレルショップで12年働きました。最初はアパレルの仕組みすら知らなくて、僕たちが着ている服がどうやって流通してるかもわかんなかったんです。だから、とりあえず販売から学び始めて、そこから生産管理とか商品管理とか買い付け・出店まで全部やらせてもらいました。

その会社では本当にいろいろやりたいことやらせてもらえました。でも、30過ぎたくらいである程度仕事にも自信がついて、「じゃあ次どうしようかな」ってなって。当時、アパレルが飲食やったりとか宿泊業やったりとかっていう流れがあって、僕は前の会社でもそういうことできるかなと思ってたんですけど、社長があんまり乗り気じゃなかった笑。会社の方向性と僕がやりたいことに多少ずれがあったんですね。

それと、会社には徐々に下の世代の子も増えてきて、僕がこのまま会社に留まることで彼らがやりたいことを邪魔してしまうんじゃないかと思って。このまま惰性で最低限のお給料もらって生活をしていくこともできたんですけど、それはなんか違うなと。それで、その頃から徐々に自分のお店を出す物件を探し始めました。

 

「お客さんともよくこういう話をするんですよ」という戸田さん

 

―そのお店を小名浜に開こうと思ったのはなぜですか?

当初は他の地域も考えていました。その中には東京という選択肢もありました。その中で地元にあるいわきも候補としてありました。地元であるいわきなら街を作りたいという思いを実現しやすいかなと思って。そうしたら、運よく今のお店が入っている物件を見つけられました。

 

―「街を作りたい」とはどういうことですか?

東京とかの大きな街にお店を作ろうとなると、原宿とか表参道とか、すでに街は作られていて、その枠組みの中でお店をやらなくちゃいけないじゃないですか。そして、そういう街を作っているのはデベロッパーやゼネコン。もう手が届かなくなっちゃいます。

一方で、いわきなら地元ということもあって、街が変わっていくのを間近で見られるし、自分で手を加えることもできる。伸びしろがありますよね。東京はリソースに恵まれているし街ごとに積み重ねられた文化がありますが、そういう意味ではいわきだとなんでもゼロから自分たちで作れるじゃないですか。それが楽しいですよね。楽しみが自分で作れるんです。

 

ALAYAがある小名浜の街(写真提供:ALAYA)

 

―そういえば戸田さんは、ALAYAにお客さんとして来ていた若い子を東京に送り出したという話をされていましたよね。

そうです。いわきで、銀行員と公務員をやっていた子たちです。彼らは洋服が好きで、よくうちにも来てくれてました。そうやって何度かお店に来てくれている中で話を聞いてみると、自分たちで古着屋さんをやりたいらしいんです。このお店にはそうやって相談しに来る人がけっこういるんですけど。

でも、じゃあどこまで本気なんだろうなって思って、僕が東京に持ってる家があるから、本気ならそこを貸すから住んでもらってもいいよって言ったんです。そうしたら、その年の3月で仕事辞めて、今はそれぞれ東京の古着屋さんと雑貨屋さんで働いています。

 

―なぜそこまで下の世代を育てようという気持ちになれるんですか?

なんででしょうね笑。でも、それが4、5年後に全部つながると思ってます。あと5年したら僕はその時もう40歳超えちゃってる。

そうするとお店に来てくれるようなハタチくらいの子たちと僕は20歳も離れちゃうから考えていることとか、買い付けてくるものの趣向とか、ブランクができちゃうと思うんです。そうなったときにやっぱり10歳くらい年が違う次の世代に繋いでいかなきゃいけないですよね。今僕が話しているような話を東京に行った彼らが30代になった時にしていて、それをまた次の20代の子たちが聞いている。

いわきにもそうやって流れが続いていったらいいなと思います。東京に送り出した子たちには特に期限は設けなかったんですけど、彼らには周りから認められて、自分たちでも「これだけやった」と思えるタイミングで帰って来たらいいよって言ってあります。若い子たちに強制するものではないですけど、そういう流れが自然にできていったらいいなって思っています。

 

「自分もなるべくお店の風景の一部でありたい」と言う戸田さん

 

―戸田さん自身やALAYAは今後どんな姿を目指しますか?

いわきで、東京とか海外の雰囲気・空気感を伝えたいです。カフェでの会話やお店に並んでいる服を通して、東京なんて、海外なんてすぐ行けるよって伝えたい。SNSの発達で以前よりは身近になったとは思いますけど、「アメリカ行ってきた」「ヨーロッパ行ってきた」という体験がもっと身近にあってもいいし、それが楽しいと思うんです。

一方で、いわきに来たことがない人には「いわきにもこういうお店あるんだ」とか「こういう場所があるんだ」って思わせたい。別に戦ってるわけでもないですけど、田舎に帰って気抜いてお店やってるわけじゃなくて、東京の人たちにも負けないようにやりたいですし、「いいお店やってるね」って言われないとなって思ってます。

いわきから東京などに出て行った人が、「いわきに何もない」っていうのではなく、「こんな店もあるよ」っていわきを知らない人に紹介できるような、そしてそうやって紹介された人が「いわきに来てみたい」って思えるような、そんなお店にしたいです。

 

商品の買い付けは海外にも足を運ぶそう(写真提供:ALAYA)

 

―今後小名浜やいわきがどういう場所になっていけばいいなと思いますか。

ALAYAと被らない業種のお店ができるといいですね。それは自分たちで作っても誰かほかの人が作っても構いません。何かやりたい人がうちに来て相談してもらってもいいです。

ただ、どんなお店を作るにしてもALAYAは上回っててほしいと思います。ALAYAが一つの基準点だと思ってもらって、僕一人でもこのお店作れたんだからみんなもできる、少なくともここよりいいお店は作れるって思ってもらいたいです。ALAYAに来た若い子が「あそこのお店良いよね。あそこよりいいお店やろうね」って思ってくれて、僕としても「すごいの作ったな」って思いたいじゃないですか。そうやっていいお店が重なっていっていい街になるんだと思います。

だからお店やりたいとか何か始めたいっていう人にはあまり甘く言わないようにしています。やろうと思えば簡単にできてしまうんですよ。でもそれでは芯がないので。

 

戸田さんの、優しいながらも芯のある話を聞かせていただいた

 

いわきは東京に比べればもちろん田舎ですけど、ここだからできないことなんてないと思います。むしろできることも多いと思うんです。地方でも東京から行こうと思う場所ってありますよね。東京からわざわざ来る価値がある。小名浜やいわきもそうやって地域名で呼ばれて、一日二日過ごせる居心地のいい街になったらいいですよね。

そうなるためにはなんとなく思い描く姿がないといけないと思っています。思い描きつつ、欲しいものは自分で作る。そして自分がやりたいことをやるために人を育てる。そうやって自分が作りたい街に近づけて行けたらと思ってます。

 

氏名 戸田 宗輝(とだ・ひろき)
プロフィール 福島県いわき市出身。
大学卒業後、東京でアパレル会社勤務。12年勤める。
いわきに戻り、18年9月に独立しALAYAをオープン。
アメリカ、ヨーロッパなど、年数回の海外へ古着の買い付けをしながら店舗の運営をする。
店舗ではハンドドリップのコーヒー、抹茶も提供。
コーヒーは深煎りが好き。
連絡先 HP:http://alayaonline.com
Instagram:@alaya_jp