Youtube、IGTV、TikTocなど動画系SNSの広がりからプロジェクションマッピングやインスタレーションなどの空間表現まで、映像を使ったクリエイティブは多岐に渡ります。近年様々なカタチで動画による発信が増え、地方においても動画や映像メディア抜きに地方PRが成り立たない時代に、いわきで映像を軸に潮目を作ろうとしているユニットがいます。今回紹介するのは、2018年にいわき市四倉に拠点を構え夫婦でクリエイティブユニットCreative Farm SHANMEを組む渡辺雅也さんと渡辺香さん。ふたりにとって、いわきでのクリエイティブな活動にどのような可能性を感じているのでしょうか。
取材・文・写真/森 亮太(mogura)
Shiome Creators File no.6
渡辺雅也さん 渡辺香 さん
クリエイティブの種を探し続ける
−現在の活動を教えてください。
渡辺雅也(以下、雅也):現在、夫婦でCreative Farm SHANMEという屋号で活動しています。現在はドローンを飛ばして映像作品作ったり、いわきFCのCMやWEB動画コンテンツなどをやっておりますが、厳密に言うとビデオグラファーではないんですよ。映像は得意としているけれど映像だけしかやらないっていうスタンスではないんで。クリエイティブの一番何が面白いのかっていうと、大元の企画の部分だと思ってます。コンテンツとして何をするかというクリエイティブがまずあって、その次に表現をするアウトプットがあるという考え方です。なので手段として映像が最適であれば映像をやりますが、大切なのは手段に捉われないでベストな表現方法を考えることだと思ってます。
いわきで初めて関わったのは、道の駅よつくら港で開催された「よつクリスマス イルミネーションズ」でした。実を言うと僕は神奈川県出身で、元々結婚する前はいわきに何の縁もなかったんですけど、四倉が実家の妻の父親つながりで紹介いただいて。道の駅でイルミネーションをやることにはなったけど、どうしたらいいのか分からないという状態で相談が回ってきました。
渡辺香(以下、香):物理的、時間的条件から考えるとバルーンツリーってどうだろう?というアイデアから、地域の子どもたちが作れるものがいいよねっていう”確からしさ”みたいなものから探していって、企画書をザックリ作ったんですよね。
雅也:予算も限られている、準備期間もない、本番の期間も少ない。要件的には厳しかったですが、今後継続するきっかけにするためにもシンボリックな意味合いを込めて風船で作るクリスマスツリーを企画しました。

雅也:この時期の四倉は風強いし、寒いし。さらに夜間は人は基本的に出歩かないと聞いていましたが、この2日間だけはびっくりするぐらい人が来たと言われました。当時の僕には集まり具合がどのくらい凄い事なのか分からなかったのですが。それもあって2018年もやろうということになり、スケールアップもさせなきゃいけなかったので「浜風きらら」も入れた3箇所でやったんです。道の駅の演出をやりつつ、イベント全体の運営の事務局もやりましたね。
今回は10日間と期間も長かったので、雨風に耐えられる仕様にしました。みんなでつくるというコンセプトは外したくなかったので、四倉地域の小学生やワークショップに来てくれた地域の方々など、みんなに描いてもらったクリスマスにちなんだ絵を集合体にしてでっかいクリスマスツリーを作っちゃえってことで、ステンドグラス風な四角錐のツリーを作ったんですよね。フレームが鉄製なんですが、そこは地元の鉄工所に相談しながら作りました。
香:1度に一気に来た人数は一昨年の方がすごかったけど、去年は1日あたりでは少なくともトータルは去年よりも来てもらえたのかなという感覚でしたね。

雅也:思い起こせば最終的にいわきに移住することにした決め手は、この「よつクリスマス」の仕事をいただいたことでした。
香:仕事があるぜ、みたいな。
雅也:その前に二人の中で気持ちは大体決まっていたんですけど、あとはきっかけとタイミングかなと思っていた矢先にその話がきたので。
香:もしかして流れ来てない?みたいな。
雅也:なんか調子に乗ってるみたいに聞こえますが…これをきっかけに動いた方がいいんじゃないのかなというのが最終的な決断。この先の事というのは全然見えてなかったけれど、このタイミング逃して後悔するのも嫌だなと思ったし、今はものづくりでいうとネットのおかげで場所を問わずともできる環境にはなったので。
香:いわきに引っ越す前に半年間くらいウザワリカさんをはじめ、何人かに話を聞きに行ったんですけど、誰に会っても来ない方がいいよとは言われないし、面白そうなことをしているし。思っているよりいわきでも自由に生きていけるんじゃないかっていうリアル感みたいなのがあったのが、私の中では大きかったのかなと思います。
−二人のクリエイティブな協働で印象に残ったものはなんですか。
香:PR 動画の撮影で広島県福山市に行ったんですよ。喧嘩しながら撮って。
雅也:ダブルディレクションのデメリットが出てたんですよね。
香:コレってどうなんだ?ってみたいな話を繰り広げながら。シーン毎にぶつかってましたよね。
雅也:撮影してる中でイメージしていることの食い違いが一部あって。でも形にはしなきゃいけないし、撮影は進めなきゃいけない。そういう時にこっちがいい、あっちの方がいいという風になってしまいましたね。
香:コンテを書く前の段階を二人で考えて、私が絵コンテに起こして。カメラマンさんは外部の人にお願いして、イメージを伝えてディレクションして。自分たちでドローンも飛ばしましたね。カット編集は彼がやって、その後のトランジションだったりとかエフェクトだったり編集作業は私と彼の半々ぐらいで行って、結構二人の間でクリエイティビティの行き来があったような感じですね。
この動画のターゲットは 首都圏のF 1層(20歳~34歳の女性)なんですが、私は全然 F1じゃないですけど(笑)、女子の気持ちは分かると。なので音選びだったりとかこういう方が女子ウケするよ、みたいな。プランニングする前にすごいTikTokを見てる時期があって、そこからインスピレーションをもらったりもしました。
雅也:撮影では喧嘩しちゃいましたけど、結果的にいいディスカッションになったし、お互い得意なところを出しつつ共同作業で行ったのがこの作品ですね。こういう仕事をいわきでもできるといいなと思ってます。
香:ちなみにこういった映像って、まだコンペの段階から、企画書のクリエイティブ部分を書いてと言われることがあるんですけど、最近は奇抜だったりとか目立つだけというロジックでは全然通らなくなってきたと思っています。可愛い女の子が出れば、たくさんの人が見てくれるかもしれないけれど、実際に人が足を運んでくれないと意味ないですよね。そういうところがあるので、マーケティングデータやアクセス解析といった情報的なバックグラウンドがあった上でのコンテンツプランニングが結構大事になってくるんです。それを受けてどれだけ魅力を伝えるクリエイティブができるか。福山の映像も実はそういうバックグラウンドの上で制作してます。
雅也:それもあるし、目的があってその映像のコンテンツがあるわけじゃないですか。映像一個作りました、配信しましたでは多分大した効果ってないと思うんですよ。それに付随する様々な企画とかアイデアとかがあって、そういうのが連動して一個の大きなプロジェクトになる。ひとつのアウトプット単体ではなくて、全体でどうするかということを考えないといけないと思っているんですね。例えば、PRの動画ではあるんだけど、その動画での世界観が実はリアルに存在していて、実際に行くと映像で見た世界観を疑似体験できる連動プロモーションになっていたり。そういう形にしていく必要性があると思っていますし、そうじゃないとコンペに勝てないです(笑)。
−いわきでのクリエイティブ、どのようにお考えですか?
雅也:東京で20年近くクリエイティブの仕事に関わってから移住してきてたので、その経験を活かして地域に新しい価値や体験を作っていけるといいなと思っています。ただ、違う方向から全くの別ものを持ってくるという価値ではなく、地域ごとに歴史やいろんな文化があるわけだから、そういう今あるものを活かしながら発展させるような形で新しい価値を生み出していきたいなと。
例えば四倉では、30年以上続いているねぶた祭りがあるんですが、自分たちが入ることによって、今までにないねぶたを作りたいと思い、プロジェクションマッピングの技術を活かした表情が変わるねぶたを作りました。お祭りの当日はやっぱり見たことないものが目の前に現れたせいか写真をバンバン撮られたのか印象に残ってます。新聞にも何誌か掲載いただけました。今回のプロジェクションねぶたは、伝統的な四倉のねぶたっていうベースがありつつも、今までにはなかった価値に出せたと思ってます。こういうことをもっと地域に根ざした形で色んな所でやっていきたいですね。

香:いわきに限らず、地方になると何かいいデザインがないかなとか、いいチラシ作りたいんだけどみたいな決め打ち、もうアウトプットが決まっていることが多い印象ですね。でもその前の段階が私たちは一番大事だと思っていて、何でこれって作るんでしたっけ、みたいな話を巻き戻すめんどくさい人たちって思われながらも、ちゃんと対話してコミュニケーションを取っていきたいですね。
雅也:クリエイティブファームという屋号をつけてるのも、耕すとか育てるという意味を重視していて。コンテンツ化して発展に繋げられる創造性の種みたいなのはいっぱい埋まってると思ってるんですよ。いわきにもたくさん。その創造性の種をたくさん見つけて、自分たちのクリエイティブが入ることでその種が育っていくみたいなことを活動としてやれるといいなと思っています。
いわきってすごい広いじゃないですか。地域ごとに歴史とか文化とか産業も違うし、色んな人の生き様がある。本当に多様だなと思っています。そこにはクリエイティブ、創造性の種が埋まってるはずなんでそれを掘り起こしたいですね。まだ1年ぐらいしか関わりがないですけれど、その中でもここでこういうことをやったら面白いんじゃないかなということはたくさんあります。これから、種を常に探し続けていきたいですね。

氏名 | 渡辺雅也・渡辺香 |
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プロフィール | 渡辺雅也 1977年生まれ、神奈川県出身。1999年にクリエイティブカンパニーNAKEDへ入社。平面/WEB/CGのデザイナーを経て、ディレクター&プロデューサーとして活動。特に博覧会やコンベンションなど、特殊映像装置を活かしたコンテンツ制作に数多く携わる。2010年からプロジェクションマッピング事業開発および空間演出事業を担当し、プロジェクションマッピングブームの火付け役となった東京駅プロジェクションマッピングをはじめ、数多くのプロジェクトを担当。NAKEDを退社後は、地域に根ざしたコンテンツクリエイティブから地域の発展につなげたいという思いから活動拠点をいわきへ移し、2017年にCreative Farm SHANMEを立ち上げる。 渡辺香 アートディレクター。福島県いわき市四倉町出身。大学では映像メディア、メディアアートを専攻。大学助手などを経て広告制作会社の映像プロデューサー/ディレクターとして、大手自動車メーカー、航空会社、観光PRなどのクリエイティブ企画制作を担当。その後、夫婦クリエイティブユニットCreative Farm SHANMEの活動を始める。2018年夏に本格Uターンし、いわきを拠点に活動を開始。故郷を思いを寄せながら、国内外の案件に日々奮闘中。 |
webサイト | http://shanme.jp/ |
SNS | 渡辺雅也 https://www.facebook.com/dubianyaye 渡辺香 https://www.facebook.com/kaoru.toda/ |