吉田隆治さん 9つの窓でいわきを見ていく

いわき民報の記者として、そして、いわき地域学會の代表幹事として、いわきという場所を見続け、発信してきた吉田隆治さん。あるときはジャーナリスティックに。またあるときは歴史的、地理的にいわきと向き合ってきました。そんな吉田さんに「潮目性」について伺いました。

取材・文・写真/木田 修作(とまり木編集部)

 

いわきの地域学 × 潮目 「潮目考」第1回
吉田 隆治さん
9つの窓でいわきを見ていく


 

|いわきは3極3層。

 

—いわきと潮目の関係について考えています。

吉田:まず、いわきの地域構造を押さえないと。俺の見方なんだけど、いわきはハマとマチとヤマに分けられる。で、一方で人口的な数や今までの歴史的な経過をひっくるめると、大きく平、小名浜、勿来の3つの極がある。つまり、ハマ、マチ、ヤマの3つの層があって、平、小名浜、勿来の3極がある。3極・3層。これをダブルトライアングルというふうに呼んでいるんだけど、そういう視点で見るとわかりやすいんじゃないかな。

 

—確かに平にも、マチとヤマがありますね。

吉田:小名浜も勿来もそうです。さらに、それを流域でとらえる。平だと夏井川流域、小名浜だと藤原川流域。勿来だったら鮫川流域。そうするといろんなものがぴたっとはまってくるんだよ。いわきは3つの流域の連合体だっていう捉え方だよね。それぞれにハマがあり、マチがあり、ヤマがある。

 

—川で捉えるということですか。
吉田:そう、水環境で地域を見る。これを思い立ったのは、記者のときに夏井川の水道水源の問題とか、産廃処理場の問題とかがあって取材したとき。そういう問題がかつてあったんだよ。上流にゴルフ場や処理場ができるというんで、下流の平の人たちが汚染された水を飲むのは嫌だとなった。そのときに水環境を軸にした地域の捉え方があるんじゃないかって思ったわけ。

 

—道ではないんですね。
吉田:最初はみんな道で考えるんだけど、発想を変えようと思った。流域となると、水の流れで区分けされるから、行政区域を超えていくんだよ。夏井川の水源は田村市の滝根町でしょ。そういう全体を見ないことには、水問題は捉えきれない。そこから、水源から河口までの物語とか探していったり、調べていったりしたわけだ。そうするとその「潮目」って言われるものと重なる部分があるのかなという思いはあるね。

 

湯ノ岳と小名浜を結ぶ、藤原川

 

|陸の潮目

 

—どんな部分で重なるんでしょうか。

吉田:例えば生態系の問題。道路の法面工事1つ捉えても、ハマの法面とヤマの法面は本来違うはずなんだよ。植生から言って。だけど今までの土木・建設業ってのはあまり気にせず、一緒くたにやってきた部分があった。植生よりも、すぐ草が生えて表面が覆われるような、そういう工事が主体だよね。もっといえば、西洋の植物の種だろうと何だろうと、早く芽生えて土が固まればいい、そんなやり方だった。

浜だろうが、山だろうが関係ない。なぜかというと、効率を優先するやり方だった。だけど、自然と人間の関係っていうものは、実は地域ごとに違う。ハマにはハマの植物があるし、ヤマならヤマの植物がある。生業だって違う。ハマだったら漁業、ヤマだったら農林業。全然違うわけだ。そういう違いを踏まえないと、行政の展開も違うし、市民の認識もハマとヤマでは違うはずなんだよね。細かく細かく見ていかないと。

 

—何だか、陸にも潮目がありそうな話ですね。

吉田:植物学でいうと、ハマの植生は照葉樹。クスノキとかシイノキとか。1年中つやつやしてる葉っぱの広葉樹。いわきのハマはそれなんだよ。で、ヤマはブナ系。落葉樹なんだ。そうすると、面白いのが夏井川渓谷ね。あそこは谷の方は照葉樹なんだけど、尾根の方は落葉樹なんだ。その間は中間的な植生になっている。同じ1つのV字谷の中で、谷の方と真ん中と尾根の方と3つの植生が分かれている。

いわきの場合は同じ行政体の中でそれが見られるんだよね。ちなみに照葉樹は、暖かい温帯(暖温帯)で、落葉樹の方は冷たい温帯(冷温帯)というふうに言われている。で、その中間もある。夏井川渓谷はその3つの層があるんだね。そこに俺は週末いつもいるわけだ。そうすると、いろいろと目の前で見えるぶん考えちゃうわけ。それとあと地域学會で、いろいろ教えてもらったことは大きいね。

 

—そういうことを考えるきっかけみたいなものはあったんですか。

吉田:記者っていうのは、もっぱら人間相手にするわけだ。これは好むと好まざるとね。人間についてはいろいろ考えてきた。でも、いわきで生きる以上、人間だけではだめだと思っていた。それが歴史と自然を知ることだったのかな。いわきの人間と自然の関係をとことん調べなきゃならないと思ったんだよね。で、記者始めてで10年くらい経ってから、地域学會ができて。

そういう意味ではいわきで人間と自然の関係について、みんなの知識をもらって深めていくことができる環境にあったんだよね。俺にとっては植物なんだよね。魚よりも(笑)確かにここは、潮目と言われるように、海もそういう黒潮と親潮のぶつかり合うところ。陸地もそうなんだよね、どういうわけか。陸は潮目とは言わないけれどもね。植生的にも南方系と北方系が混ざるところなんだ。いわきはやっぱり面白いところだと思うよ。

 

|食文化と潮目

 

—照葉樹と広葉樹だとくらしも違ってきますね。

吉田:うん。一番わかるのは、伝統郷土食。自然の食材を使って、それぞれの伝統が育まれるわけだ。ハマの場合は、せいぜい海岸線から数キロなんだよ。2、3キロがハマの食文化圏。それ以上離れると農業圏になって、ハマの食文化はまったく知らないんだよね。

 

—2、3キロっていったらすぐですね。

吉田:うん。鹿島街道のいわき東警察署の山、あそこまでいかないかもしれない。親戚がハマにいれば別だけど、昔のハマの食文化圏っていうのはそのくらいなんだ。それは魚は腐るからだと思う。冷凍技術もなかったし。ちなみに、私が住んでいる神谷は河口から5キロぐらい。全然知らないもんな、ハマの食文化。親戚がいればまた別だろうけどね。そういう部分も面白いと思う。そんなふうにいわきの特色みたいなものを考えるときに、食文化なんてのは割とはっきり出てくる。

 

各地の郷土料理をまとめた冊子を見せていただいた

 

|いわきは虚像かもしれない。

 

—人の往来はあったんですかね。

吉田:道なんだけど、川筋に道ができる。やっぱり川なんだ。川は境にもなってきた。例えば夏井川は、平藩と笠間藩神谷分領の境になっていた。もっと大きく言うと伊達藩が攻めてくるのを防ぐのが夏井川。あと、三次元のほかに、四次元の時間軸も入れてみていかなきゃいけない。空間+時間。地理的解釈とともに歴史的解釈を踏まえて土地は見ていかなきゃならない。

歴史は私も、地域学會に入って教えてもらったようなもの。現場でだいぶ鍛えられた。役所の取材をしていたとき、いわきの全体像をつかみきれなかった。全然わからなくて、どうやったら全体像をつかめるのだろうと思っていた。それから勿来に転勤になった。その取材範囲は鮫川流域だった。そこで気づいたのは平と勿来には交流がないんだ。すぱっと切れている。小名浜はまだ近いから交流あったんだけど、平と勿来となると、まったくない。こういうことなのか、と了解したんだ。

いわきを実像としてとらえるためには、流域ごとの連合体ととらえるとよくわかるんじゃないかなと思う。いまでも、いわきというのはある種の「虚像」だと思う。いわき全体を表す実像は描けないんじゃないかなと思う。3極3層、9つの窓として、いわきを見ていく。そうすると、課題や実像が見えてくるんじゃないかな。窓から見える風景が違うから。そして、それを分けているのは自然、風土なんだね。

 

笑顔でインタビューに答えてくださった

 

 

氏名 吉田 隆治(よしだ・たかはる)
プロフィール 1948年生まれ。元いわき民報常務取締役編集制作局長、いわき地域学會代表幹事。神谷在住で、週末は夏井川渓谷の「隠居」で過ごす。