中村 幸稚さん 写真を通して地域をみる、場をつくる

写真は誕生以来、多くの場面を切り取ってきました。特に震災があったいわきでは風景の変化が激しく、今では写真でしか見ることができない風景がたくさんあります。そんないわきで活動している中村さんは、「写真とは、地域ってこういうものだと確認する作業」と言います。写真を撮ることだけでなく、写真を通じた場作りについてもお話を伺いました。

取材・文・写真/森 亮太(mogura)

 

Shiome Creators File no.2
中村 幸稚 さん
写真を通して地域をみる、場をつくる


 

−写真を撮るようになったきっかけはなんですか?

中村:2016年3月、小名浜にあった以前の職場の朝日製氷が廃業になって以来、フリーのカメラマン兼写真家で活動しています。「晴耕雨読」で言うと、「晴耕=昼間の本業」がお客様の依頼で写真を撮るカメラマン、「雨読=本業以外の活動」が写真で自分の創作活動をする写真家という感じですね。

僕の写真はインスタグラムをやっていることもあってポートレートの印象が強いですよね。でも最初は風景写真ばかりでした。小名浜の氷屋で働いていたから、朝早くて、仕事が終わるのも早かった。だから日の出とか、夕陽の写真をいっぱい撮っていて。同じ小名浜にあるオルタナティブスペースUDOK.に集まっている時に、人を撮る楽しさに目覚めてきてポートレートを撮るようになったんです。今でも小名浜の風景はよく撮りますよ。

カメラを始めるきっかけは、UDOK.で工場夜景撮影というイベントがあったんです。UDOK.を主宰している小松くんが開催していて、それに参加したのが始まりでした。だからカメラを始めて4年ぐらいしか経ってないんですよ。ここに出るのが申し訳ないくらいだけど、でもすごくハマってしまって。写真を撮るようになってから、枚数の大小はあれど1日たりとも欠かさず写真は撮っています。野球はでいうと素振りみたいなもんですかね。自主練といってもいいかもしれません。

写真をやり始めて一番変わったのは、歩くことを意識し始めたことですね。俺は茨城からいわきに来て、ずっと車社会で育ってるから、歩くなんて仕事の時しかない。写真をはじめてから、歩かないと見落としてしまうものがいっぱいあったことに気づいて。

なんか俺が住んでる街はこういうところなんだっていう、探検とも言えるような、確認作業をしながら写真を撮ってるみたいなもんですね。子どもがチャリンコに乗って地域をくまなく細い道知ってますみたいな。住んでる場所だとなおさら歩きたくなるし、探究心と確認作業という感じで写真を撮っています。小名浜あたりとかいわきって人が優しいから、じいちゃん、ばあちゃんも挨拶すればしゃべってくれますしね。

 

気さくにインタビューに答えてくださった中村さん

 

−今までの活動について教えてください。

中村:活動としてやっていた「撮×撮ToriDori」は、元々は「あさんぷぉ」って名前で。あれは最初UDOK.の丹くんがやってた小名浜本町通り芸術祭の一環として写真を撮ってプリントして飾るっていうイベントでした。丹くんの仕事がちょうど忙しくなった時に俺がそのまま引き継いだんですよね。

「あさんぷぉ」は早朝に集まって小名浜の街を歩きながら写真を撮り、海鮮レストランのさすいちで飯食って解散っていう感じで。「撮×撮ToriDori」はそれの延長で小名浜で「朝撮 ASA-DORI」、トークイベントの「CAMERA-TALK」を開催してきました。また、小名浜を離れても面白いんじゃないかってことで湯本で「湯撮 -YUTORI-」とか平で「フィルムカメラと!」というイベントをやりましたね。

 

2016年9月に小名浜で開催された「朝撮 ASA-DORI」。天気に恵まれて気持ちいい朝の空気の中、26名の方が撮影を楽しんだ。中央の白いTシャツを着ているのが中村さん(写真提供:中村幸稚)

 

中村:あとは2018年のGWに小名浜のグリーン劇場跡でやった「YATTUKE写真展」。ちょうどグリーン劇場の改装をしている知り合いがフリマのイベントやるって聞いて、自分ができるものでその時に何かをやりたいねって話を彼としていて。それじゃあ写真を展示しようってことになったのがきっかけでした。イベントを俺一人でやったとして、集客が少ないと寂しいからいろんな写真やってる知り合いを巻き込もうと思って。Twitter と Facebook とインスタで呼びかけたら20人ぐらい集まってくれました。

写真展の準備期間が2、3日しかなくて、やっつけだなあと思ったから「YATTUKE写真展」にしました(笑)。 プリントさえしてくれればどこに貼ってもいいよ、みたいなゆるい感じで。写真をやってる若い人からおっちゃんまで参加してくれたのでとても嬉しかったですね。

みんな展示っていうと、ハードルが高く感じるからからそこをどうにか下げたくて。「とりあえず持ってきて!こんだけ他の写真もあるから恥ずかしくないでしょ?」 みたいに紛れ込ませるじゃないけど、やるかやらないか、っていう話だと思うんですよね。自分がフリーランスになったときもそうでしたけど。

みんなで楽しい場を作れるのがいいのかなって思います。しかもすごいハードルが低くて良くて。昔のゲーセンとかみたいな、みんなが勝手に集まって楽しんでるみたいな、そこに別に繋がりがなくてもね。例えばゲーセン行って、一切喋んないけどいつもいる人とかいるじゃないですか? なんかまたあいつきてんな、みたいな関係性。そういうのがいいんじゃないかなと思うんですよね。

 

グリーン劇場跡の2階で行われたYATTUKE写真展の様子。 中央の写真が中村さんの作品 (写真提供:中村幸稚)

 

今後やりたいことと、いわきでのクリエイティブはどのようにお感じですか?

中村:いわきで写真を撮っているといわきの女の子と知り合いになるんですが、俺の知り合いだけで3人、東京に通いながらモデルの仕事をしている子がいます。その子たちは、いわきに仕事がないっていうのをわかってる。だからいわきでモデルの活動をしてますって謳ってないんですよね。前面に出してないけど、実際には毎週東京に通って雑誌のモデルとかファッションサイトのモデルをやってたりとかしていたりして。

俺はそういうところが勿体無いと思っていて、それを開拓したいなと思っています。いわきに住んでいるモデルを地元の企業とコラボさせたりできないかなっていうのがすごくあって。こっちの子で可愛い子はすごいいるのに、東京のモデルを使う企業が多くて。だったら地元で地産地消じゃないけど、ちゃんと回していってみたいなって思うんですよね。

それを先に行ってるのが福島美少女図鑑。今地元の企業とかテレビ局とかと組んで車会社のモデルとかやってる事がちょこちょこ増えてるんだけど、いわきでもやりたいなって思ってて。今すぐどうのこうのじゃなくて、周りの知り合いにもクリエイティブをやっている人がいるから、ちょっとづつ変えていければ。10年後、今の60代の人たちが世代交代する時、僕らの世代が上のてっぺんになった時にガラッと変わっていくんだろうなって思っています。

今のおっちゃんらの教科書通りのカッケーじゃなくて。例えばグリーン劇場みたいな自分たちで作る場所とかが増えて、そこに来る人が増えて、かっこいいものを自分たちで作っていけるような雰囲気ができればなと思います。

 

グリーン劇場にてインタビューに答えていただいた

 

氏名 中村 幸稚(なかむら・たかのり)
地域での活動 「撮×撮 ToriDori」主宰
「中之作プロジェクト写真部」部員
プロフィール フリーカメラマン・写真家。
1977年茨城県生まれ、いわき市在住。震災前にいわき市に移り住み、山と海がある自然豊かさと人の温かさに囲まれながらカメラに出会う。それ以降、カメラの魅力に取り憑かれカメラはライフスタイルに欠かせない存在となる。何気ない日常から、非日常的な場面を切り取るのが好きでその一瞬に情熱を傾ける。
連絡先 080-3938-3442(写真撮影のお問い合わせはこちらへ)
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