赤石 由佳さん  やりたいことで、身の回りを満たしていく

いわき市南部、勿来発電所の煙突がシンボリックにたたずむ街、植田。そんな植田の街に「Kiitos」という北欧風のおしゃれなカフェがあります。このカフェを営んでいるのは赤石由佳さん。Kiitosのホームページを見ると、カフェの情報以外にもイベントやワークショップ、展示会の情報がびっしり。なぜカフェなのにこんなにいろんなことをやっているのか? 「やりたいことをやらなきゃいつか死んでしまう」という赤石さんの素顔を伺ってきました。

 

取材・文・写真/久保田 貴大(ヘキレキ舎)

 

赤石 由佳さん 
やりたいことで、身の回りを満たしていく


 

―まずは赤石さんがやられているカフェ、Kiitosの紹介をお願いします。

「一日をちょっとだけ幸せにするカフェ」をコンセプトに2014年の11月にオープンしました。24時間全部を幸せにするというのはできないので、ここに来てその瞬間が幸せだったり、このカフェから帰って家から帰ったときに「今日あのカフェ行けてよかったな」ってちょっとした時間を幸せにできればと思っています。

―Kiitosのホームページを見ると、ワークショップやフリーマーケット、アーティストとコラボした個展など、カフェの枠にとらわれない、様々な取り組みをされてますよね。

そうそう、いろいろやりたいんですよね。人とモノとお金を回すっていう軸の下でいろいろやっています。私はITベンチャー企業にいた時、プロデューサーの仕事をしていて。プロデューサーというのは現場を仕切る仕事の他にも、お金を工面したり、プランニングもするという役割もあるんです。

その時に人・モノ・お金を回すということの面白さを知って、今もKiitosを拠点にしてそれをやっていければと思っています。売り上げや利益をアクティブに追い求めるのは別に悪いことではなくて、活気があって楽しくていいことだと思っています。だから私がやっている、なこそ大学というワークショップなんかも、経済を回すということを主眼においてやっています。

 

大きなガラス窓が目を引くお店の外観。

 

―ITベンチャー企業にいたというお話がありましたが、Kiitosを開くまではどのような経歴をたどってこられたんですか?

出身はいわき市の好間というところで、18歳まで地元で過ごしました。大学進学を機に東京に出て、卒業後テレビ局に就職しました。テレビ局に入った当初はけっこう堅めのドキュメント番組のアシスタントディレクターを担当していました。アシスタントディレクターを4、5年くらいやったくらいの頃、Windowsがリリースされて、インターネットも世に出始めた時期でした。そんな中、番組でもホームページを作ろうというプロジェクトが立ち上がり、私がその担当として任命されました。

当時は全くノウハウもなかったので、独学でやってくれという形で投げられて。そうしたらWebやホームページにどんどんハマっていき、ITベンチャーに転職することになりました。

ITベンチャーではけっこうバリバリ働いていて、仕事自体は楽しかったんですけど、土日出勤や出張も多かったんです。そんな仕事の合間合間にカフェに通ったりして癒されてました。それでカフェにハマって、マニアといえるくらいカフェに通っていました。出張の合間にもカフェに行ったり、東京のカフェに関してはもう全部行きつくしたなってくらい。

そのうちにぼんやりと後々カフェをやりたいなと思うようになっていきました。当時は全く現実的ではなかったんですけどね。仕事も楽しかったし。

そんな感じで構想はあったんですが、2011年に震災があって。震災がきっかけで背中を押されてカフェをやろうと思いました。

 

Kiitosの店内でお話を伺った。

 

―震災を経てどのような心境の変化があったんですか?

あれだけたくさんの人が地震や津波によっていとも簡単に命を失ってしまう光景を見て、「やりたいことをやらないとこのまま私も死んでしまう」と思ったんです。

私、好きな映画にロバート・デ・ニーロが主演の『タクシードライバー』というのがあって。1970年代の映画なんですけど、デ・ニーロが演じるニューヨークのしがないタクシードライバーが客になじられたりしながらも日々忙しい現代社会を生きている。毎日毎日働きづめで、朝から晩まで働いて頭が狂っちゃって、最後は大量殺人を犯してしまうという、いま私たちが生きる社会にも共通するような、闇を描いた作品です。

その映画のセリフの中に、デ・ニーロ演じる主人公が「仕事が人生になっちまった」と言うんです。この映画を見たのはまだ就職する前の大学生の時だったんですけど、このセリフを聞いて、「あ、そっか」と思って。やっぱり仕事は自分がやりたくて楽しいことをやらなくちゃって思ったんですよ。

その言葉がずっと心の中にあって、就職や転職の時でもそういう思いで、「やりたいことをやる」というのを目標にしていました。

震災の時に多くの死を目にしたことで、それを改めて思い返して、ぼんやりと構想していたカフェを実際にやることにしました。

 

カフェ通いの中で見つけ、自分のお店にも導入したイタリア製のエスプレッソマシン。

 

―今はまさに赤石さんのやりたいことがここでできているわけですね。赤石さんはこのKiitosを拠点にした様々な取り組みの中で、地域や人を巻き込んだものが多いように感じますが、そこは意識されてるのでしょうか?

いや、正直、あんまり考えていなくて、とにかくやりたいことをやって、その結果として気づいたら地域や人を巻き込んでいた、という感じです。

じつは私、一人でいるのが結構好きなんですよ。じゃれたりするのが苦手で…地域に対しても地元愛とかは全くなくて。大学に進学してからずっといわきを離れていたし、ほぼIターンに近いような状態で。こちらに戻ってきたときは知ってる人もいなくて、ほぼ一人でお店を立ち上げました。

そうやって、人と関わるのは二の次くらいで、自分のやりたいことをやってきたんですけど、5、6年くらいやりたいことやっていると、次第にその中で関わる人達みんな優しいなって思ってきて。頑固爺さんが心を溶かしていくようなものですかね。愛着のなかったいわきも、なんかもしかしたらいいのかもって思うようになっていきました。

 

一人でいるのが好きという赤石さん。お店に来たお客さんにもそれぞれで思い思いに過ごしてほしいという。

 

―やりたいことをやる中で自然と人の輪が広がっていったんですね。ところで、Kiitosのホームページには赤石さんの他にも様々な地域の方々の名前が出てきます。そういった方とは最初、どうやって接点を作るんでしょうか?

私が気になって、面白そうだなーと思った人に直接連絡をとって会いに行ってます。特にカフェのお客さんだった方とかではなくて。気になった人に直接連絡を取って会いに行くという形です。ネットで見て面白い人だなーと思ったら、たとえいわきや福島の人じゃなくても直接連絡を取って会いたいです。自分が興味あるもの、面白いと思ったもので身の回りを満たしたいから、そのためには待っているだけじゃなくて、こちらから捕まえに行かないと。

ITベンチャーの時の経験からかもしれませんが、そうやって知りたいものを人づてじゃなくて自分から取りに行った方が新しいものが生まれると思うんです。特に田舎の方だと同じ人の中で話題が回っちゃうじゃないですか。それはなんか面白くないなって思うんですよね。

 

―そうやって築かれた関係にはクリエイターやアーティストの方も多いですよね。赤石さんはアートにどんな視線を向けられていますか。

大学の頃、教養学部というところにいたんですけど、その学部はいろんな科目の授業が取れる学部で、最初のうちいろいろ味見する中で芸術概論という授業を取ったんです。その時にアートが面白いなーと思うようになって、美術館に行って現代美術なんかにも触れていました。

現代美術は「なんでこの人こんなことするんだろう?」と思うようなものが多くて、どこかの島を全部ピンク色の布で囲うみたいな。「なんで?」って思いませんか?そういう、狂ってるもの見たさというか、変わってるもの、面白いものをみると知りたくなるんですよね。

最近始めたものなんですけど、「クリエイターズマンション」というのがあって。クリエイターやアーティストの方に40センチ四方の箱型の展示スペースをお貸しするというものです。

地方だとそうやって面白いものを目にする機会ってあまりないですよね。でも、お客さんと話していると、「この人、意外と面白い!」っていう人はけっこういるんです。こういうアートスペースを設ければ、面白い人が浮き出てくるんじゃないかと思ってやってみています。

 

店内に設けられた「クリエイターズマンション」。情報をリリーズした当日に半分が埋まってしまったという人気ぶり。

 

―そうした場の持つ力というのも、新型コロナウイルスの影響で急激に変化を遂げています。カフェという場を拠点に様々な活動をされている赤石さんは今後この場をどうやって展開されていきますか?

私はカフェには人間が心底求めるものがあると思っていて。来た人たちが出会ったり、癒しを求める、というと陳腐な表現になってしまいますが、「ととのう」みたいな感覚を得る場。カフェでもサウナでもいいんですけど、コンセプトにもあるように、「一日をちょっとだけ幸せにする場」。そういう場はなくならないと思っています。

今は過渡期だと思うのでわからないですけど、ベンチャー企業の考え方と一緒で、ちょっとだけやってみてうまくいきそうなら突き進むし、ダメそうなら撤退する。

オンラインで何かできればいいなとも思っていて。というのも今までは近場の人たちとだけだったけど、全国の人たちと繋がれるじゃないですか。そうすればまた別の何かをやれる可能性が広がるのかなとも思います。コロナをいいようにとらえて、新しいことのきっかけにできればと。

そうやって探り探りしつつ、今までのやり方に固執しないよう、柔軟にやっていけたらと思っています。

 

氏名 赤石 由佳(あかいし・ゆか)
プロフィール 福島県いわき市生まれ。大学進学を機に上京。
大学卒業後、NHKにて番組制作の傍ら、誰もできる人がいないので番組のHP制作を担当。さらに技術を磨きたくなりITベンチャー企業に転職。サイトのプロデューサーとして様々な企画やマネージメントなどを行う。
趣味はカフェめぐり。東日本大震災を機に18年間住んだ東京を後にし、2014年11月いわき市植田町にCAFEKiitosをオープン。
連絡先 HP:https://www.cafekiitos.net/

Instagram:https://instagram.com/cafe_kiitos/

Facebook:https://www.facebook.com/cafekiitosiniwaki/