三上 健士さん  湯本に新たな「縁」の拠点を

今、いわき市湯本でエリア初となるゲストハウスの工事が進んでいます。「Hace(ハセ)」と名付けられたそのゲストハウスのオーナーは三上健士さん。五年前にいわきに移り住み、昨年の11月からゲストハウスを作り始めました。話を聞くと三上さんはバックパッカーで世界一周の経験もあるそう。そんな人がどうやっていわきに辿り着き、ゲストハウスを作り始めるに至ったのか? 湯本に新たな潮目を作ろうとするプレーヤーにお話を伺いました。

 

取材・文・写真/久保田 貴大(ヘキレキ舎)

 

三上 健士さん 
湯本に新たな「縁」の拠点を


 

―まず現在の活動を教えてください。

いわき市の湯本でゲストハウス「Hace」をDIYで作っています。昨年の11月から工事をはじめて、本来は2020年の2月にオープンする予定でしたが、まだ工事が終わる目処が立っていません笑。

 

―なぜDIYで工事しているのですか?

工務店に頼んだりすると自分がやりたいことができなくなっちゃうと思ったんです。例えば、昔の家によくあるような模様付きのガラスってあるじゃないですか。あれってもう生産していないので、今ある分を再利用するしかないんです。私はそのガラスも使いたいと思っているので、そうなると自分でやるしかない。あと、一番は面白いからですよね。そういう古いガラスや建物を再利用してゲストハウスを作っていくということ自体が面白いし、愛着が出るし、ネタになるじゃないですか。

 

昔ながらの模様付きのガラス。一枚一枚外して新しい枠にはめ込んでいく

 

―なぜ湯本でゲストハウスをやろうと思ったんですか?

元々いわきには前勤めていた会社の転勤で移り住んだのですが、いわきに来てから今の妻とも知り合って、できればこのままいわきに住みながら元々自分がやりたいと思ってたゲストハウスをやろうかなと。そう思って物件を探し始めたら偶然、湯本で自分がやりたかったゲストハウスを作れそうな物件を見つけられたんです。私はバックパッカーとして世界各地のゲストハウス200カ所くらいに泊まったんですけど、その中で、新築よりも古い建物を改装してやりたいなとか、自分のやりたいゲストハウスというのがなんとなく頭の中に作られてたんです。そういう意味では、この物件は借りている物件ですけど、好きにやってくれていいよと言われていて。湯本の温泉地で駅からも近いから商売としてやるうえでも悪くなかった。それでここに決めたんです。

 

―いわきに来るまではどのような経歴をたどってきたんですか?

私は生まれは福井県ですが、小中高は埼玉県で過ごし、大学は東京に出てました。その後、社会人になって東京の食品系の商社に勤めた後、1年半バックパッカーとして世界中を旅しました。その旅から帰り、再び会社勤めをして、その会社の転勤で長野県の佐久や松本を転々したあと、いわきに来ました。

 

―いろんな土地を旅されたり、実際に住んでらっしゃったんですね。ちなみにバックパッカー時代はどこを旅したんですか。

まずはフィリピンの語学学校で英語を学ぶところから初めて、その後新聞記者の友達を頼って、当時かなり治安が悪かったパキスタンに行きました。身元保証人がいないとビザが下りなかったんです。だけど、偶然そんなタイミングで友達がパキスタンにいたので、それなら行ってみようということでパキスタンに行きました。その後もグァテマラでホームステイしてスペイン語を勉強してから南米をぐるっと回ったり、キャンプしながらイギリスを一周したりとか。そうやって世界中を行ったり来たりしていたら1年半くらい経ってました。

 

湯本にある古滝屋でインタビューに答えていただいた

 

―それだけ世界中を旅する経験があったあとにいわきに来ることが決まって、最初はいわきにどんな印象を持っていましたか?

いわきに来た時は全くの先入観ゼロの状態で来ました。前の会社では異動があっても長野県内っていわれてたので、辞令が出た時に「いわき」って言われて、「いわきって長野県にあったっけ?」くらいの感じでした笑。そんな状況でいわきに来たんです。

来た当初、前住んでいた松本が好きだったのもあって、正直いわきは嫌いでした。松本に比べると文化的な感じがしなかったのがまずひとつかな… 松本って街並みがきれいだし、いい感じの飲み屋さんとかゲストハウスもたくさんある。そういう意味で言うといわきは… それと、5年前いわきに来たときは、原発事故の影響で避難を余儀なくされた人や、作業員として来る人がたくさんいて、人口が急増し経済がバブル状態になってたというのもあります。土地は高いしごはんもあんまり… 正直最初はとんでもないところに来ちゃったなって思っていました。

でも、いわきに住んで暮らしているうちに、そうやって見えていたいわきの姿が、ここ数年で急激に作られた表面的なものであることに気が付きました。昔からいわきに住んでいる人たちとも、仕事などを通して出会っていく中で、いわきにもオリジナルの文化や歴史があることがわかってきました。さらに、今の奥さんと付き合うようになってからはよりローカルで活動している人たちとも会って話す機会が増えてきて、この街には魅力的な人たちがいっぱいいるっていうことがわかってきたんです。

 

DIY作業は奥様のお父さんと一緒に行っている

 

―いわきのオリジナルの文化とはなんだったんですか?

いろいろあると思いますが、まず、土地を大切にしたり、途絶えてしまったものをまた復活させたりするというのは独特の文化かなと思います。たとえば、中之作地区で昔ながらの港町の風景を残すために活動をされている方がいたり、震災で途絶えてしまったつるし雛を再開する動きがあったりとか… あとは、小名浜の方だと青魚へのこだわりがあるというのもひとつの文化だと思います。私は日本海の生まれですけど、そことはまた違う種類の魚が獲れて、それに対する愛着とかプライドを持っているように感じます。そういうところがいわきの文化なんだと思います。

 

―そんないわきに住んで、ゲストハウスを作るまでになったんですね。

実は元々は南の島でゲストハウスをやるつもりでした。でも、私も妻もいわきで働いているし、いわきは気候が穏やかで住みやすいところていうこともあって、だったらいわきにしようかなって思ったんです。土地へのこだわりは特になくて、それよりもその時の縁を大切にしたいので。

あと、住んだことによって生まれる愛情っていうのもあると思います。もともと平の方に住んでいたので湯本には住んで半年くらいですけど、すでに愛着はできつつあるし、温泉旅館の方々もすごくよくしてくださっている。そういう意味では自分もここの土地の一員として、住む人にとっても訪れる人にとってもいい場所になるように自分でも何かできたらなって思っています。

 

作業場に置かれた、ゲストハウスができることを知らせる看板

 

―新型コロナウイルスの感染拡大で社会が混乱してますが、今後どのようにゲストハウスを展開していきますか?

不謹慎かもしれませんが、新型コロナウイルスが発生したからこそ準備にゆっくり時間をかけられるようになったと思っています。急いでオープンしなくてもマイペースで準備できますから。ゲストハウスのオープンの目処とかは全く立てていなくて。

もう時代は変わってしまいましたから。あくまで私の考えですけど、元の世界に戻ることを考えるよりかは、いまの状態の中でどうルールづけて生活し、経済活動をしていくかを考える流れになっていくと思います。歴史の中でも何度か感染症の流行があって、それによって生活のスタイルが変わったと思うんですけど、今回もそういう流れの中の一つだと思っています。

だから、新しい時代になるという時に今の段階で必要以上にあれこれ考えてもしかたないとも思います。どんな時代でもどうとでも動けるような状態でいたいので、あんまり遠い先のことは考えていないです。やってみたいことはいろいろあるんですけどね。

 

作業に必要なものはほとんど自前で揃えているという

 

たとえばこれから先、テレワークが進んでオフィスに行かなくても仕事ができるようになったりすると、住む場所を一カ所に固定することはなくなってくると思うので、その時にゲストハウスをセカンドハウスとして使ってもらうプランを考えたりとか。昼間は営業していないキッチンスペースを、将来カフェを開いてみたい人に間貸しするとか。

その時社会がどういう状況になっているかはわからないから、どれを実際にやるかはわからないけど、とりあえずやってみたいことはたくさんメモしておいてあります。やりたいことが全部ができるわけじゃないけど、ひとつもできないっていうわけじゃないですしね。

これから先、技術が発達して働かなくても食べていくのに困らない時代はすぐに来ると思っています。そうなったときに暇になった人が最後何にお金を使うかというと、エンターテインメントとコミュニケーションなんですよ。そうなったときに、その二つができる場所に、自分のゲストハウスがなればいいなと思ってます。

 

―今後ご自身のゲストハウスができて、湯本がこうなっていけばいいなという理想像はありますか?

リアルシムシティになればいいなっていうのがあります。この街に住む以上、この街が居心地よくて、基本的にはこの街ですべて完結したらいいなと思ってます。そうなったときに私のゲストハウスの前の通りが、今は空き家がたくさんありますけど、そこに面白いことをやろうとしてる人たちが入ってきて、自分のお店とか持ってくれればいいなと思っています。

 

 「Hace」が立地する、湯本の温泉神社前の通り

 

おいしいごはん屋さんとか、くつろげるカフェとか、サクッと立ち飲みできる角打ちとか。そして、私のゲストハウスがそのきっかけになれればと。そうやって、自分があったらいいなと思うお店を自分が増やすんじゃなくて、手助けしたいなと思ってます。だから、何か始めようと思っている人がまず私のゲストハウスに来る、「あそこ行けば面白いことが待ってるぞ」っていうような場所になればいいと思いますね。

 

氏名 三上 健士(みかみ・たけし)
プロフィール 大工⇒宿屋の親父(予定)

福井県越前町出身。いわき市湯本町在住。

9年間の社会人生活を経て、バックパッカーに転職。1年半で世界50の国と地域を訪れ、200以上のゲストハウスに宿泊。

帰国後社会復帰を果たすも、ゲストハウスの魅力が忘れられず、湯本温泉でゲストハウスの開業を目指して、現在は大工仕事の日々。
連絡先 Facebook:www.facebook.com/guesthouseHace/

Instagram:www.instagram.com/gh_k_hace/