アーツキャンプの開催場所が「白水」である理由

 

私たちが今年、なぜ「内郷白水町」に着目したのかといえば、やはりここにいわきの「潮目」があると考えるからです。白水町は、かつて炭鉱で栄えた町。広大な常磐炭田で、もっとも初期に石炭が採掘されたのが白水町内の「弥勒沢」だと言われています。

石炭業発展の礎を築いたのが、現在のいわき市四倉町に生まれた商人、片寄平蔵。平蔵は、安政2年(1855年)に白水村弥勒沢付近で石炭層を発見します。これを機に平蔵は本格的な採炭を始め、幕府から石炭御用を受けるようになったと言われています。弥勒沢は、まさに常磐炭田の歴史が生まれた場所でありました。

このためこの地区は、もっとも早くから開発され、最盛期の勢いたるや、ものすごいものがあったと言われています。ページのトップの写真は、白水の川平地区の写真です。びっしりと炭住が並び、引き込み線や列車も確認できます。坑ごとに町ができ、劇場や野球場などもあったそうです。坑があるところに技術も人も店も集まる。まさにこの地は炭鉱の町でした。

 

川平地区には、かつて炭鉱の労働者が暮らした炭住も、一部残されている

 

川平地区から入山地区に向かう途中にある、炭鉱栄えし頃の隧道

 

川底の浅い白水川には、車が直接入ることができるところも

 

今回、会場のひとつになっている白水小学校は、かつていわき市最大クラスのマンモス校として知られていました。昭和30年代には6学年合わせて700名近くいた生徒も、石炭が斜陽産業になるにつれ地区外へ移住する方が増え、昭和50年には115名。平成元年には70名ほどとなり、今年は3人にまで減ってしまいました。小学校は、今年度いっぱいでの閉校が決まっています。

 

美しい高倉山と、白水小学校

 

小学校の自慢の図書館。デザインが素晴らしいんです

 

校舎の内装には木材がふんだんに使われています。ほんとうに素晴らしいんです

 

しかし、その閉校の事実は、いわき市民の多くにはほとんど知られていません。いわきの産業を支え、教育を支え、常磐炭鉱の歴史を伝えるこの小学校が、ほとんど知られることなく閉じられてしまうのは、あまりに寂しいというもの。もっと多くの人に、この小学校の歴史や素晴らしさを伝えられたらと思い、この校舎でプログラムをさせてもらえないかと校長先生に相談したところ、開催を受け入れて下さいました。

今回のアーツキャンプでは、遠藤校長先生に「特別授業」をしてもらう予定です。この学校の歴史、流れてきた時間。そこには、いわきの歴史を知る上での「潮目」が見つかるはず。今年度で閉校になってしまうこと自体も、歴史の潮目に立っていると考えることもできるでしょう。一般的な中山間地域のような過疎化ではなく、鉱業という役割を終えたヤマの町。町も人も翻弄してしまうエネルギー産業について思い馳せてみるのも良いかもしれません。それは、白水でしか味わえないもののはずです。

 

常磐炭鉱の歴史、という意味では、みろく沢炭砿資料館も強烈な存在感を放っています。ここは、渡邊為雄さん個人の資料館。昭和30年代この弥勒沢の炭鉱で働いていた為雄さん。離職後、写真や採掘に使用した鉱具類、炭鉱地形図など炭鉱に関する資料を集め、平成元年に自力で開館したものです。個人でやってしまう。その凄まじい執念。それを、皆さんに感じてもらいたいし、私たちも感じたい。

 

為雄さんの思いの詰まった炭砿資料館

 

炭鉱の生産用具類は近代化産業遺産に認定され、いわき市文化財にも指定されています

 

一般的な博物館や資料館よりも強く感じる、「生もの」の圧倒的な迫力

 

みろくざわ芸術展のリサーチに同行頂いた為雄さん(写真中央)

 

今回、私たちは、このみろく沢炭砿資料館一帯を会場にした「みろくざわ芸術展」を予定しています。為雄さんの思いがこもったこの神聖なヤマを芸術家たちに見てもらい、感じるがままに作品を残して頂きます。作家は、いずれもいわき在住の作家ばかり。いわきの人間が、この潮目をどう感じるのか。それを見てみたい。そのため、いわき在住の作家にしぼった展示を企画しました。

また、「しらみず文化大学」のフィールドワーク講座では、為雄さんが話者として参加頂くコミュニティツーリズムの企画も予定されています。為雄さんの語る言葉にじっくりと耳を傾けてみて下さい。ガイドは、昨年から「風とカルマのツーリズム」を展開している、江尻浩二郎さんです。江尻さんと為雄さんのコラボ、こちらもぜひ注目ください。人が何かを残したいと思う。表現したい、作りたいと思う。その根源を、為雄さんは私たちに感じさせてくれるでしょう。

 

内郷の白水といえば、国宝である白水阿弥陀堂が有名です。しかし、阿弥陀堂は入り口にすぎません。阿弥陀堂よりもさらに山側。トンネルをくぐった先に、かつての炭鉱町の面影を残す入山(いりやま)地区、川平地区があります。その両地区合わせて「白水」。多くのいわき市民にとっては、ほとんど用事すらない地区かもしれません。生まれて一度もこの地を訪れることなく歳をとる人がほとんどでしょう。しかし、この場所に、近代のいわきを知るための重要な「潮目」があります。

 

異界へと通じるトンネル。阿弥陀堂の奥に、いわきのほんとうの空が見える

 

いわきの歴史、文化の潮目を、ぜひこの「白水」で感じてください。いわき潮目劇場2018「しらみずアーツキャンプ」。皆さまのお越しをこころよりお待ちしております。企画について詳しくは、アーツキャンプのイベントページをご覧下さい。一部フィールドワークは予約が必要です。どうぞご予約の上ご参加ください。