風とカルマのツーリズム「上遠野~昭和末期の遠野銀座商店街を歩く」

3月4日(日)、風とカルマのツーリズム第二弾「上遠野~昭和末期の遠野銀座商店街を歩く」が開催されました。当日は好天に恵まれ、春どころか初夏のような陽気。たくさんのお子さんを含め総勢23名での大変賑やかなツアーとなりました。いわき版コミュニティ・ツーリズムに挑戦してみようという本プロジェクトの集大成。ディレクターでもある私が、こちらで上遠野ツアーを振り返りたいと思います。

案内人は遠野地区のまちづくり団体「トーノ・ノート」代表の島崎圭介さん。昨年11月の講座、12月のワークショップ、今年1月の内覧ツアーを経てここまで練り上げてきました。今回は「トーノ・ノート」メンバー数名、および御両親もサポートガイドとして参加。大変贅沢な布陣となりました。

上遠野は浜通りと中通りを繋ぐ古道「御斎所街道」に位置する宿場町。棚倉藩領時代には陣屋も置かれ、1万石以上の石高を持った大きな村です。八幡神社から遠野支所までの約1キロは「遠野銀座通り」と呼ばれ、昭和末期まではびっしりと商店が立ち並んでいました。ここで幼少期を過ごした島崎さんが、学校帰りにブラブラと遊び歩いたこの周辺を存分に案内してくるという趣向です。

 

案内人の島崎さんから、まずはツアー概要の説明。

 

最初に訪れたのは医王山東光寺。上遠野地区に四ケ寺ある曹洞宗の一寺です。墓地裏の斜面に大きな防空壕があり、馬産の歴史なども聞きながら八幡神社へ向かいます。上遠野用水の清らかさとその水量に驚き、川向こうの化石の話に目を輝かせ、上遠野川の滑床に恐る恐る足を踏み入れると、いつの間にか大人たちも子どもに戻ってしまったかのようです。

 

防空壕。中はかなり広く堀り込まれ、子ども達は大はしゃぎ。

 

上遠野で最初の信号機があったところ。昔はここで信号を渡る練習をしたとか。

 

島崎さんのお父さん。要所要所で詳しい話を聞かせてくださった。

 

上遠野川の滑床。この河岸にある穴は八潮見城まで繋がっていたという伝説がある。

 

渡るとゆらゆら揺れる木造橋、通称「ユーラン橋」へ向かう路地。

 

「ユーラン橋」は残念ながら現在通行不可。

 

パン屋「ウメノヤ」さんは日曜定休ですが、スタッフが事前に購入しておいたデニッシュが振舞われました。極上のパイ生地に一同舌鼓。また駄菓子屋「小谷野商店」があった空地ではたくさんの駄菓子が配られました。大勢でワイワイ歩き、燦燦と陽の降り注ぐ空の下で駄菓子を頬張る。駄菓子のひとつひとつについて、大人も子ども話に花が咲きます。

 

バナナやいちごやブルーベリー、色とりどりのデニッシュ。

 

昭和の駄菓子は今の子どもたちにも大人気。

 

高台にある雷神様の境内。ここからの見晴らしは素晴らしい。

 

さてツアー終盤、別雷皇太神(雷神様)の下で、島崎さんは突然、30年前のある事故の話を始めます。実は島崎さんは、小学2年生の時ここでダンプにはねられ、子どもの頃の記憶が殆どないのです。これがこのツアーの肝でした。

 

雷神様の下で、島崎さんは突然、30年前のある話を始めた。

 

私たち「風とカルマのツーリズム」メンバーは「人こそがメディアである」という考えをプロジェクトの基点としています。案内人の「記憶」はその中で最も重要視されるべきものです。上遠野ツアーを作り始めた当初、「子どもの頃のことをあまり覚えてないんです」と繰り返す島崎さんに、正直不安を隠すことができませんでした。

1月の内覧ツアーでは、やはり今日のように「トーノ・ノート」メンバーや御両親が参加してくださり、「あまり記憶がない」という島崎さんの代わりにあれこれと説明してくれました。そしてツアー最後に聞いたのがこの事故の顛末だったのです。衝撃でした。私たちは「記憶のない案内人」の「記憶を辿る」ツアーに参加していたのでした。こんなコミュニティ・ツーリズムが他にあるでしょうか。

ディレクターである私は、不安がる島崎さんにこのままの内容での開催を提案します。同じようにメンバーや御両親が参加し、島崎さんをサポートしてガイドしてくれればいい。そして最後にこの事故の話が明かされる。きっと島崎少年はここにいる人びとに多くの場面で支えられ幼少期を過ごしてきたに違いない。その繋がりのようなものが間接的に感じられれば、それでツアーは成功なのではないか。

こうしてこのツアーは、「風とカルマのツーリズム」2本目にして、コンセプトを根底から覆す革新的ツアーとなった訳です。島崎さんならではの遠野銀座通りツアーはこれしかない。ネタばれになってしまいましたが、今後もぜひ再演してみたい1本となりました。

 

「トーノ・ノート」メンバーの説明に島崎さん自身も聞き入る。

 

今年度のコミュニティ・ツーリズム事業である「風とカルマのツーリズム」はこのツアーの開催をもって終了です。座学やワークショップから地道に積み上げ、大変特徴的なツアー2本を制作することができました。配布されたマップは近日ウェブサイトなどで無料公開される予定です。今後の再演にもご期待ください。

 

レポート:潮目文化アーカイブ班 江尻浩二郎