風とカルマのツーリズム「中神谷~江戸の智慧と物語を歩く」

2月20日(日)、風とカルマのツーリズム第一弾「中神谷~江戸の智慧と物語を歩く」が開催されました。いわき版コミュニティ・ツーリズムに挑戦してみようという本プロジェクトが、とうとうオリジナルツアーの実施に漕ぎつけました。ディレクターでもある私が、こちらで記念すべき中神谷ツアーを振り返りたいと思います。案内人は「いわき地域学會」副幹事、夏井芳徳さん。

このプロジェクトが走り出した時、私が最初に考えたのは、私自身が「誰の」「どんな」ツアーに参加してみたいのか、ということでした。まっさきに思い浮かんだのが夏井芳徳さんです。今年(2018)は戊辰150年。夏井さんは「いわきの戊辰戦争」を語るスペシャリストであり、またご自身の生まれ育ちが、戊辰戦の際、大変特殊な事情を抱えていたここ中神谷地区なのです。夏井さんが、地元の中神谷を、戊辰戦の様子を絡めながら案内するツアー。これこそ私が思い描く、いわきで最高のツアーでした。その夢が叶ったことになります。

江戸時代の後半、このあたりは笠間藩(茨城県笠間市)の分領でした。分領とはいえ3万石という大変な所領。現在の平第六小学校の敷地に神谷陣屋が置かれ、約50名ほどが詰めていたようです。幕末、磐城三藩が奥羽越列藩同盟に加わる中、笠間藩は新政府側の立場をとり、神谷陣屋はまさに孤立無援。磐城平城との距離はわずか3キロ程ですが、この神谷陣屋の動向が勝敗を大きく左右することになります。

 

神谷陣屋が置かれていた場所は、現在「平第六小学校」となっている。

 

体育館裏に建つ、神谷陣屋について記された石碑。

 

今回のサブタイトルは「江戸の智慧と物語を歩く」です。出羽神社境内には多くの神々が祀られていますが、ひとつとしてそのご利益が重複しているものはありません。「神社にどのような神が祀られているのかを見れば、そこがどのような地区なのか分かります」と夏井さん。大変に面白いレクチャーでした。ちなみに本殿には大物忌神(おおものいみのかみ)、社名である出羽三山の神は「梵天(ぼんでん)」という古い形でお祀りされています。市内に2か所しかない大変珍しいものだそうです。氏子は中神谷地区の140戸ほど。

 

出羽神社の石段。赤鳥居の向こうに小川江筋が通る。

 

梵天の前でそれぞれの神についてレクチャーする夏井さん。

 

ちょっとした楽しみとして「中神谷の道3選」というコンテンツも用意されました。その一つである立鉾鹿島神社(たてほこかしまじんじゃ)の参道は、なんとJR常磐線により分断されており、これを通ってお参りすることはできません。年に一度、5月の例大祭でのみ、JR担当職員の立会いの元で神輿が横断するそうです。ぜひ見てみたいですね。

 

立鉾鹿島神社参道を南側より望む。鳥居の先は線路に遮られている。

 

腰をかがめるトンネル歩道。高さは140センチほど。

 

行き止まりかと思いきや、こちらにまさかの細道。誰でも通行できる公の道だ。

 

中神谷地区は、各々の時代を感じさせる特色ある街並みが点在し、山、水路、陣屋、耕地、鉄道、街道、宿場、国道、川などなど、様々な要素を楽しみながらコンパクトに周ることができます。マップには簡単な地形断面図も掲載しました。そういう意味でも大変に魅力的なエリアだと言えます。

 

神谷耕土(かべやこうど)と呼ばれる広大な水田地帯。

 

夏井川上流を望む。昭和40年代まではここに渡船場があった。

 

愛宕地蔵尊。かつては出羽神社にお参りする前にここで数日間「お寵り」をした。

 

ツアーのクライマックスは、十九夜様と剣八幡が並んで祀られている小さな祠。江戸時代の初め、この場所で敵討ちがありました。米沢から若い姉弟が父の仇を求めて旅をし、ここ中神谷でその男に巡り会います。果し合いを挑みますが敢え無く返り討ち。その後、白い蛇がその男の家に様々な怪異現象をもたらします。白は決闘の時の白装束を思わせ、あの姉弟が成仏できないに違いないということで、姉には十九夜様、弟には剣八幡を祀り、毎年3月15日に供養を行うようになったということです。

この夏井家というのは、なんと夏井さんの本家筋に当たる家。つまりこの話は夏井さんのご先祖の話なのです。「そういうサバイバルに生き残った悪い奴らが今の私たちですね。たぶんみなさんの先祖も5、6人殺してると思います」と夏井さん。後を引く言葉でした。

大正頃まで、ここには大きな桜の木があったそうです。それは真っ白な桜で、やはり敵討ちの白装束を思わせました。満開の頃は赤井嶽からもよく見えたといいます。

 

十九夜様(如意輪観音)と剣八幡が祀られている祠。

 

今回制作したマップは近日ウェブサイトなどで無料公開される予定です。みなさんもご自身でこのツアーを楽しむことができるかと思います。また、機会があれば夏井さん自身によるツアー再演も企画して行きたいと思います。お楽しみに。

※本プロジェクトは今回から正式名を「風とカルマのツーリズム」に改めました。仏教の世界観ではすべての始まりは風です。カルマは行為もしくはその因果。始まりと因果を辿るまち歩き、それが「風とカルマのツーリズム」です。

 

レポート:潮目文化アーカイブ班 江尻浩二郎