廿三夜講復活プロジェクト(1)潮目になる宿の作り方

いわき潮目劇場ではこの度、廿三夜講(にじゅうさんやこう)復活プロジェクトとコラボレーションし、全3回にわたって「潮目」について考える講を開催することとなりました。モデレーターは劇作家の岸井大輔さん。多様なゲストトーカーと、それぞれのテーマに沿って対話していきます。

そもそも廿三夜講というのは、勢至菩薩をお祀りする陰暦23日の月待講。23日の月の出は24時の少し前で、翌日昼頃ようやく没することから、特に神秘的なものとされてきたようです。講では、皆で持ち寄ったものを食し、あれこれと語り合いながら月の出を待ちました。いわき市平には廿三夜講に特化した2つの堂宇があり、大正期の勧請から昭和の中頃まで大変な賑わいであったといいます。

その廿三夜講を復活させるため、菩提院副住職の霜村真康さん、イタリアンレストラン「La Stanza(スタンツァ)」オーナーの北林由布子さんらが中心となって「廿三夜講復活プロジェクト」が発足しました。廿三夜尊堂(いわき市平十五町目)にて不定期に現代の「講」を開催。14回目にして初の出張「廿三夜講」となります。

いわき潮目劇場としての第一回目は11月1日(水)、北林さんのお店、La Stanzaでの開催となりました。テーマは「潮目になる宿の作り方」。山陰初のシェア&ゲストハウス「たみ」を開業した蛇谷りえさんをお迎えし、ゲストハウス開業を計画している北林由布子さんと、潮目の宿について考えるという内容です。小名浜のサンマと鳥取のアゴダシを使った北林さん特製「さんまつみれ汁」が振舞われ、地酒もずらりと並んで、賑やかな雰囲気でのスタートとなりました。

 

モデレーターの岸井さんは、大きなテーブルを囲む空間作りをした。

 

上野台豊商店のすり身ほか、地場産の厳選野菜を使った極上つみれ汁。

 

今回のゲストは鳥取県で二つのゲストハウスを立ち上げた蛇谷りえさん。

 

北林さんは原発事故後、安全で極上の食材を顔の見える生産者から直接入手するというスタイルでLa Stanzaを経営してきました。定休日は畑に通い、畑と街を繋ぐお店になりたいと考えています。その延長で、同ビル内にゲストハウスやラウンジなど、街の流れを変えるような場所を作ろうと画策中です。

それを話し合うに相応しいゲストとして岸井さんが選んだのは、2012年、鳥取県東伯郡湯梨浜町で複合型の滞在スペース「たみ」を、2016年には鳥取市に「Y Pub&Hostel」を開業し、その独創的なスタイルから各方面で注目されている蛇谷りえさん。「どうやって回しているのかという話を聞くために呼びました。」と岸井さん。

 

廿三夜講復活プロジェクトのモデレーターは劇作家の岸井大輔さん。

 

廿三夜講復活プロジェクトの発起人でもある、La Stanzaオーナーの北林さん。

 

北林)イタリアのバールのような場所をイメージしてる。情報が集まっていて、人々がコミュニケーションを楽しむ空間。難しいかもしれないけど、学校帰りの小学生も寄れるような場所にしたい。ゲストハウスがメインというよりは、そういうスペースが作りたいという気持ちがある。

岸井)街には普通、その街の情報を得られる喫茶店とか本屋とかがあるものだけど、いわきで思いつくのは個人。これはハードルが高い。外から来る人のハブになる場所があるといいと思う。アーティストがいわきに来ようと思った時に、泊まるところがない。ホテルはあっても彼らにはお金がない。泊めてくれる人が現れると、いわきの人は親切すぎるので放って置いてくれない。アーティストはある程度放って置かなきゃいけないんだよね。自分のペースで動きたい人たちなので。

 

地元の名蔵「又兵衛」さんからの差し入れ。

 

ここで蛇谷さんの活動紹介となりました。まずは「かじこ」。2010年に岡山で開催されたゲストハウス型プロジェクトで、これは期間限定でした。宿泊/レジデンス/オープンスペースという3つの機能を有し、108日の期間中に延べ348名が宿泊したそうです。この活動でゲストハウスの面白さを知った蛇谷さんは、鳥取県東伯郡湯梨浜町で山陰初の複合型ゲストハウス「たみ」を立ち上げます。現在は鳥取市で2軒目となるゲストハウス「Y Pub&Hostel」も運営し、多忙な毎日を過ごしています。

 

豊富な写真資料で、原点となった「かじこ」から振り返る。

 

蛇谷)ゲストハウスやるならとにかく人が要る。始めてから人を探して関係作りじゃ遅い。5年前は2人だけだったけど、これは無理だなと。2年目に補助金で緊急雇用して、少しずつ手が離せるようになった。今は正社員が4人、アルバイトが20人くらい。その他にも掃除したら無料で泊まれる制度を導入したり、インターンを受け入れたり、いろいろしてる。

岸井)インターンにいきなり店長をやらせたりしてるけど?

蛇谷)その人のすごいとこをみつけてガンガン使う。他力をどう使うか。チームでやる面白さも出てくる。鳥取は人が少ない。フリーターも少ない。普段正社員で働いている人が関わりたいと言って来たのでボランティア枠を作った。いつどれだけ来られるかを聞いて、手が足りないところを負担にならない程度にやってもらったりしてる。スタッフミーティングは月一回。モヤモヤを共有する。ある人には問題でも、別の人には問題じゃなかったりする。

 

写真撮影が禁止の「たみ」。ここでも様子は公開されない。

 

蛇谷)(受付に)立つ人が大事。客が来たらまずヒアリングする。興味あるものとか訊いてみる。それに対しでこちらからいろいろ情報は出すけど、最終的には自分で決めてほしいから無理には勧めない。合わない人もいる。そういうときは無理せずに翌朝のスタッフに報告しておく。

 

蛇谷さんが(受付に)立っているなら是非行ってみたいという声も。

 

蛇谷)私はコミュニケーションをとりたいからゲストハウスをやってる。トークイベントではせいぜい2~3時間で、しかも1人対20人とか。でもゲストハウスなら24時間チャンスがある。夜はだめでも朝になるとリラックスしててしゃべれたりする。その人その人のタイミングがある。ベッド貸します、ハイさようなら、じゃなくて、昨日どうだった?今日どこ行くの?困ったことあったら聞いてね、みたいに声をかけると、それだけで違う。その環境が大事。そこから、自分も相手も予定してなかった時間が過ごせたりする。うまくいかなかったとしても、その人は(安く)泊まることが目的だから、別にOK。それ以上はオプション。何が何でもなんとかしようというのはおかしい。不安定な、人間と人間の、どうピントを合わせようかというのが面白くてやってる。

 

「コミュニケーションをとりたいから」と蛇谷さんの理由はシンプルだ。

 

北林さんには、とりあえず「かじこ」のように期間限定でやってみたらどうか、という提案がされました。会場の中には是非これを手伝いたいという人が現れ、計画は一歩先に進んだようであります。

トーク終了後、いつものように参加者全員で数珠繰りをしました。高度経済成長期頃まではどこにでもあった風景ですが、市内でもかなり珍しくなりました。初めての方のために菩提院副住職・霜村真康さんから簡単な説明があり、「南無阿弥陀仏」と唱えながら大きな数珠を回します。

 

勢至菩薩の掛け軸が飾られ、廿三夜尊堂に伝わる大数珠が回された。

 

次回の廿三夜講は11月16日(木)です。テーマは「潮目の龍を旅する」。市内沿岸地域に点々と祀られる八大龍王について考えます。

 

※1 バールとはイタリア全土で16万軒もあるといわれる、地域社会に密着した日々の生活に欠かせないお店。簡単な食事ができたり、切符などが売っていたり、単なるカフェではなく、自分の距離感で自由に関わることができる。

 

レポート:潮目文化アーカイブ班 江尻浩二郎

撮影協力:橋本栄子