インタビュー:早坂攝さん

インタビュー:早坂 攝さん

 

今年のいわき潮目劇場で、ひと際異彩を放っていたのが「フクシノワ」の関連の企画です。介護や福祉に楽しみながら関わることができるイベントを開催するフクシノワ。アートやコミュニティデザイン、ツーリズムといったプログラムがラインナップに名を連ねる中、フクシノワの企画だけが「福祉」を見据えていました。ともすれば、「大変そう、辛そう」というイメージが持たれがちな福祉。その既成概念を覆すべく活動を主宰されているフクシノワ主宰の早坂攝さんにお話を伺いました。

 

—フクシノワについて

 

—フクシノワの活動について教えてください。

早坂:2017年の春からスタートした活動です。介護や福祉に興味のある人が集まって、お茶などを飲みながら、ゆったりまったりと話をするという活動を行っています。

—始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

早坂:僕は、普段、高齢者介護に関わるケアマネジャーの仕事をしています。今年で福祉の仕事に就いて8年目になるのですが、職場でなかなか言葉にしにくい悩みや、葛藤をもつことがあって。そういうことを共有できる場所を必要としている方が、他にもいるんじゃないかと感じていたので、フクシノワを始めることにしました。

—仕事での悩みや葛藤というと?

早坂:僕は、介護を利用する方が人生の中で成し遂げたい夢や目標、その方の価値観に寄り添って、一緒に目指していくことが、介護の仕事だと思ってこの仕事に就きました。でも、実際の職場では、ご本人の身体状況や、病気ばかりが、注目されてしまって。「病気を治しましょう、歩けるようになりましょう」とはいうものの、「じゃあ何のためにやるの?」というところに、あまり目が向いていないと感じています。

例えば、実際に僕が経験したエピソードですが、ある方が「クリスマスツリーを見に行きたい」と僕に相談してきたんですね。そこで、僕は一緒に行く許可を施設に求めました。でも、結果はダメ。「この人にやってあげたら、他の人にも同じことしてあげないといけないでしょう」と。僕は、それは納得ができなかった。ただ、その人の価値に寄り添って仕事をしたいという自分の思いを、実際の現場で訴えて行くのもなかなかエネルギーが必要で…。

 

福祉の現状について、フクシノワについて語って下さった早坂さん。

 

—なるほど。そういう課題意識から、フクシノワが生まれたのですね。

早坂:そうですね。でも実は、「介護カフェ」といった活動は、他の場所でもけっこう行われています。介護に関わる人々の対話の場の重要性は、色々な場所で認識されてきたことなんです。でも、僕はそれに加えて、一見、介護や福祉に関係のない方々にも、フクシノワの活動を広げて行きたいと思っています。特に僕は、高齢者介護を専門にしていますから、その方面で活動していきたいですね。

—高齢者介護…。確かに、若い世代には中々、実感を持つのが難しそうですね。

早坂:でも、誰でも歳を取っていきますよね。いざ、自分が当事者となった時に、何をどうすればいいかわからない人って結構、多いんじゃないかな。そういう状況で、「なんだ、介護サービスってクリスマスツリーも見に行けねぇもんなの」となるのは嫌だなと思って。フクシノワは、とても草の根的な活動ではあるんですが、色々な方が関わることで、福祉の世界を少しずつ変えていけるんじゃないかなと思います。

 

—「フクシノワ」と「いわき」

 

—この一年、活動をおこなってみて、何か変わったなと思うことはありますか。

早坂:まだ一年なので、正直、「これは!」というものはあまりないですね。でも、僕自身の人々との関係が広がったし、「いわきの人たちが福祉に対して、どういうイメージを持っているか」という点から勉強になることがたくさんあったと思っています。

—それは、どういうイメージだったのでしょうか。

早坂:仕事をしていると、利用者やそのご家族に、色々と説明する機会が多いんですね。そういう立場にいると、「ここまで説明すればわかってくれているだろう」というのが、僕の中でできあがってしまっていて…。でも、フクシノワのイベントを通して、僕が想像していた以上に一般の人々が、「分からない」ということが分かりました。

この経験は、仕事の中ですごく役にたっています。利用者やご家族への説明を、どこから始めて、どう説明すればいいのか見えてきたんですね。 「もっとちゃんと説明しないと」という風に気持ちが引き締まりました。そうやって説明した上で、徐々に介護や福祉の本来の意味を伝えていかないといけないな、と改めて気づかされました。

 

潮目劇場の企画「フクシネマ」で講演する早坂さん。

 

—今年度はどのようなイベントをおこなったのですか。

早坂:今年は、福祉に関する映画を観る「フクシネマ」というイベントや、音楽を聴きながら福祉について語り合うイベント(「昭和のレコードを聴きながらお茶を飲みつつフクシについて話し合おう会」)などを開催してきました。イベントの告知は、基本的にSNSを通して行なっていて、オープンな形で参加者を集めています。温めているアイディアはたくさんあって、今後は、福祉と町歩きをコラボさせて、「街中福祉ツアー」をやってみたい。バリアフリーのスポットを探検してみるイベントで、今度、小名浜にイオンができたら、イオンでやりたいなと企んでいます。

—早坂さんは、いわきのご出身ではないんですよね。市外出身の立場から、いわきという地域の、バリアフリーや福祉のまちづくりについて、どのように感じていらっしゃいますか。

早坂:うーん、これはいわきに限った話ではないと思うのですが…。福祉って色々なジャンルがあって、みんな仕事の内容が違うんですよね。そういうものが、バラバラに点在していて、つながりあっていないと感じています。

いわきでは、埼玉県和光市の事業をモデルにして、介護の事業が進められています。リハビリテーションとか、医療・看護の専門知識を活用して、利用者の身体状況・生活状況を分析し、数値化された目標を立てていくんですね。そして、その目標に応じたサービスをピンポイントで提供していくんです。こういった仕組みからもわかるように、医療と看護の結びつきは強い。ただし、僕は、そこと介護士たちがつながっていないと思っています。現場の介護士には、もっと自分たちのやっている介護を発信してほしいと考えています。

—介護を専門にする介護士が、意見を発信する力をもっとつけてほしいということですか?

早坂:そうですね。介護士は、利用者とずっと一緒にいて、お風呂やトイレまで一緒の関係です。そういう立場にあるからこそ、説得力をもって言えることが絶対にあると思うんです。「身体機能をアップさせよう」という目標自体は素晴らしいことですが、それだけではない。利用者が家に帰って、その人らしい生活を送った時のことを考えて提案していくということを、現場の介護士に頑張ってほしいと思っています。

—そういった現状に、フクシノワはどういうアプローチをしていきたいですか。

早坂:これはすごく気の長い話だと思うのですが、介護に関わる方々の「働き方」の意識を変えていくことで、社会が変わるんじゃないかと思っています。

今、介護士の仕事は、非常に限定的・労働集約的です。そのため、「この時間までに、これを終わらせなければいけない」といったように、介護士が利用者を管理する状況になりがちです。でも、「お風呂は後から入りたい」といった利用者の希望は当然ありますよね。そういう希望と、介護士の業務の割り振りや、責任範囲などが合致していない。もっと、利用者の価値をどれだけ叶えられたか、という点から、介護士のことを柔軟に評価できるような仕組みがあるといいなと思います。

一方で、こういう大きな理想を掲げるだけじゃダメだなと。やっぱり、自分自身の実践も伴わないと説得力がでないですよね。だから、僕は、フクシノワを通して、理想を語り、実践もして、周囲を巻き込んでいきたいと思っています。

 

—潮目文化における「福祉」

 

—今回、潮目劇場の企画の中では、文化や芸術と福祉のコラボレーションがなされていますが、何か意識されていることはありますか?

早坂:僕は、文化・芸術と、福祉のあり方っていうのは、一緒だと思っています。文化や芸術が立ち現れてくるプロセスには、ある対象に対して、価値観を表現していくための思考があると思うんですね。例えば、一概には言えないですが、「この人に幸せになってもらいたい、人生をより楽しくしてほしい」というような。そういう思考が、複雑に絡み合って、文化や芸術が形になっていると思うんです。僕は、介護をそういうアプローチで実践してきたので、一緒だなと感じていますね。

 

今期はフクシノワ主催で、ゆるく福祉を語るお茶会なども企画されました。

 

—早坂さんにとっての、「潮目」はどのようなイメージでしょうか。

早坂:僕は、日頃から、色々な課題を抱える人々と仕事をしています。福祉の課題って、単純に誰かに原因を押し付けられないんです。ある課題が生まれる背景には、いろんな要素が複雑に絡み合っている。本人の理由かもしれないし、社会に理由があるかもしれないですよね。すごく色々な要素の組み合わせが、人や社会を作っていると実感しています。

こういう状況を見ているので、色々な要素の集合体が「潮目」みたいなものなのかなと捉えています。「潮目」は、さらに、そういう色々な要素の複合体や、それぞれの結節点が、面をつくっているイメージかな。

—「面」というのは?

早坂:そうですね。一つ一つの要素の多くは、「人」だと思うので、「面」は地域のイメージでしょうか。「面」である地域の中で、ビリヤードのボールがぶつかるように、色々な結節点が生まれていると思います。結節点だけを見れば、個人の関係性が生まれたということにしかなりませんが、視点をずらせば、面全体の中で巨大なうねりが生まれているという見方もできますよね。「潮目」っていうのは、すごく想像を掻き立てられる表現だなぁと思います。

—そのような「潮目」の地域で、フクシノワは、今後どのように活動していきたいですか。

早坂:今後は、イベントのレパートリーをもっと増やしていきたいですね。今のところ、福祉や介護の入り口としての立場だったと思うんですが、これからは、もっとプラクティカルなイベントも増やしていきたいです。「これをやると介護がたのしくなる」とか「明日から職場で使える」とか。フクシノワのイベントの運営を通して、いわきに場づくりができるといいなと思っています。ゆっくりでいいので、自分のペースで。プロセスを丸ごと楽しみながらやっていきたいです。

 

聞き手・構成:潮目劇場アーカイブ班 小宅優美

 

プロフィール:早坂 攝(はやさか・せつ)

社会福祉士。フクシノワ主宰。ネットラジオ「キノミキノミリア」ではラジオパーソナリティも務める。