12月16日、いわき市平のカフェichiで、フクシノワの企画「新しいフクシの伝え方の話をみんなでするお茶会」が開催されました。今年、いわき潮目文化共創都市づくり推進実行委員会には、フクシノワを主宰する早坂摂さんがいらっしゃいます。普段はケアマネをしている早坂さんは、これまでの「福祉」とはまた違った「フクシ」を伝えるために様々な活動をしています。そこにどのような「潮目らしさ」があるのか、それを見届けるべく、お茶会に参加してみました。
この日のコンセプトは「お茶会」。NPO法人Ubdobe代表理事の岡勇樹さんをゲストに迎え、フクシの伝え方を話そうというものです。なぜフクシノワの皆さんが「新しいフクシ」というテーマで、岡さんをゲストに迎えたのか。最大の理由は、岡さんは決して「福祉」をしているわけではなくて「フクシ」をしていると、フクシノワの皆さんが考えたからでしょう。
岡さんのプロフィールを紹介すると、アメリカで幼少時代を過ごした岡さんは、帰国後にDJ・ドラム・ディジュリドゥなどの音楽活動を始められます。その後、お母様の死や、祖父が認知症になったのとをきっかけに、音楽療法を学びながら高齢者介護や障害児支援の仕事をしてきたそうです。29 歳で NPO 法人Ubdobe を設立し代表理事に就任後は、医療福祉がテーマのクラブイベント、障がい児や難病児とつくる野外フェスなどをプロデュースしてきました。


もうプロフィールからして福祉業界の方ではないというか、音楽業界の人としか思えないわけです。おそらく、岡さんは音楽業界の人であって、その立場で「フクシ」に関わっているという感じなのかもしれません。雰囲気も、まさに音楽業界の人といってもおかしくありません。「医療福祉がテーマのクラブイベント」とか言われても、それが福祉業界のイベントとはまったく思えない。すでに私も、福祉に対して固定化した目を向けていたのかもしれません。
そもそも「フクシ」というものは何なのでしょう。「福祉」ではないのでしょうか。そんな原初的な問いも、このお茶会に参加していると、何となくどうでもよくなっています。この日の参加者は、皆さんそれぞれに福祉の領域で仕事をしている方ばかりでした。しかし、どう考えてもみなさん「それぞれの人たちがより輝かしい人生にするにはどうしたらよいだろう」という話しかしていないんです。それこそ「フクシ」なのかもしれません。
福祉というと、どう高齢者を介護したらいいのか、どう障害者の暮らしやすいデザインを取り入れるか、といった話になったり、どうやったら資格を取れるかとか、今の制度のどこに不備があるのかという話が展開されるのかと思っていたら、ぜんぜんそんなことはなくて、岡さんは音楽とイベントの話ばかりだし、参加者の皆さんも、それぞれに首をウンウンと上下させながら、お話を聞いているんです。


こちらはかつて岡さんが企画したイベントの模様。
岡さんは、これまで関わったイベントなどを紹介しながら、今の福祉業界に起きているもろもろの問題点や、活動に生まれたプラスの効果などをお話して下さいました。岡さんの企画に共通するのは、「それぞれに楽しむことを、みんなが楽しんで、その結果として “障害” が見えてくる」ということでしょうか。個々人がそれぞれに楽しみながら、全体としても統一感が生まれ、それがグルーヴとして感じられる。まさに真っ正面から「音楽」の話でした。
例えば、聴覚障がいをテーマにしたイベントでは、メーンステージで聴覚障害のある人たちが踊り、手話でしか注文できなバーを作ったりと、常にその「障害」を逆転させていきます。そこではむしろ、世間では障害があるとされる人たちのほうが、場を思い切り楽しんでいる。そこで私たちは「障害って何だろう」ということを考えることができます。徹底して、音楽とパフォーマンスとイベント、そしてデザインによって突破していこうという岡さんの話に、参加者は大きな衝撃を受けている様子でした。


社会福祉、介護、障害・・・・みんな、なんとなくのイメージができあがってしまっています。その中にいる人たちは、その社会のイメージに沿うようにして自分たちの活動をしてしまっているのかもしれません。福祉とは、辞書を引けば「みんなが幸せになること」といった意味が出てきます。それは職業や資格や領域という狭い話ではなく、「みんながよりよい人生を送る」「みんなそれぞれに輝ける場所がある」そんなことを考えること、そのものなのかもしれません。
岡さんは、自分の好きな音楽を通じて「みんなそれぞれに輝ける場所」を作ろうとしている。つまり「フクシ」とは、音楽だろうとアートだろうと食だろうと、それぞれが関心のあることを通じて、それぞれが輝ける社会をつくること、なのかもしれません。この日参加した皆さんの心には、岡さんの言葉の種のようなものがきっと残ったはずです。それを、このいわきというところで、いかにして表現していくのか。いわき潮目文化共創都市づくり推進実行委員会でも、「福祉×潮目」というものについて、もっと考えを深めていければと思います。
報告:潮目文化アーカイブ班 小松理虔