レポート:学びと歩みの痕跡をジオラマに

 

レポート:おなはま学歩ジオラマ展

 

10月8日、9日の2日間、「カルチャーショックプログラム」のプレ企画「おなはま学歩ジオラマ展示」が行われました。会場は、来年早々の閉店が決まっている小名浜のショッピングモールリスポ。ジオラマは、そのセンターコートに展示されました。まちを歩き、まちを学び、その痕跡をジオラマに残す。壮大なプロジェクトの展示を、ここで振り返ります。

潮目文化共創都市いわきでは、今年、小名浜本町通り芸術祭の町歩き企画「おなはま学歩」と連携し、企画で得られた知見や歴史、風景の「ジオラマ展示」を行いました。制作にあたったのは、小名浜本町通り芸術祭実行委員会の皆さん。町歩き企画で見た風景、歴史などが、コミカルにジオラマに表現されています。パネル展示などもあり、展示当日は、多くの買い物客が足をとめ、展示に見入っていました。

 

展示に足をとめる人たち。じっくりと文字を追う人たちの姿が印象的。

 

小名浜の隠れた歴史や名所をポップに掲示。興味深い歴史が紐解かれます。

 

展示されたのがショッピングセンターということもあってか、本当に多くの人たちが立ち止まっては、あの場所はああだった、こうだったと話し込む姿が印象的でした。じっくりと見入る年配の男性、ジオラマに触ってみたい子どもたち、こんな歴史があったのかと新鮮な驚きを見せる若い世代。作品を通じてコミュニケーションが生まれ、そこに対話の場が生まれていました。

ジオラマ展示には、ある一時代を切り取った歴史だけではなく、年代の違う複数の出来事が表現されています。二次元としてのジオラマではなく、時間の流れや、膨大な個人の意志が流れていようにも見えます。過去をこうして複層的に重ね合わせることで「あり得たかもしれない歴史」まで想像できるようでした。

ジオラマ制作に先立って行われた町歩き企画では、小名浜の山から海にかけて神白地区を歩く「神白編」と、海から住宅地、そして山へと戻る「富ケ浦編」の2回に分けて行われました。一行をナビゲートしたのは、郷土史研究家で、いわき潮目文化共創都市づくり推進実行委員会の委員でもある、江尻浩二郎さん。独自のリサーチと、エンタテイメント性抜群のスピーチで参加者を魅了。小名浜の興味深い歴史に、参加者たちはあっという間に引き込まれた様子でした。

 

町歩きの模様は、小名浜本町通り芸術祭のウェブサイトにも掲載されています。

学歩 神白編① 千速の跡 https://onahamahonchostartfes.amebaownd.com/posts/2392557
学歩 神白編② 薬師下、神白海岸 https://onahamahonchostartfes.amebaownd.com/posts/2392871
学歩 富ケ浦編① 立ち退いた神  https://goo.gl/XbAAEU
学歩 富ケ浦編② 浦で起きたこと https://goo.gl/h54uAD
学歩 富ケ浦編③ 岡で起きたこと https://goo.gl/94yEx8
学歩 富ケ浦編④ おふんちゃん  https://goo.gl/w6hftu

 

神白編で訪れた小名浜の漁業無線塔。塔の下には千速古墳が二基残っています。

 

小名浜地区の山、海、川、住宅を縦横無尽に歩いた「学歩」。

 

町歩き企画を紹介するスペシャルムービーも制作されました。制作は小名浜のOUTBACK FILM。

 

小名浜神白地区にある漁業無線塔。2つの古墳もかわいらしく表現されている。

 

戊辰戦争の古戦場なども表現されている。分かりやすく、かわいらしく、想像をかき立てられます。

 

小名浜南富岡にある伝説の「おふんちゃん」。その上に鎮座する神社を再現。

 

日本史は学んでくることはできても、なかなか「地域史」までは踏み込めないもの。今回の展示は、大きな歴史では語られることのない、小さな、しかし歴史的意義のとても大きな歴史の痕跡がジオラマに表現されていました。改めて思うのは、そうした歴史が、私たちの日々の暮らしの視線をかいくぐるかのように、今なお生き続けているということ。私たちは、そうした歴史と共存しているのに意識することがない。歴史は、わたしたちが意識することのないまま消え去っていくのかもしれません。

特に今回題材となった小名浜地区は、港町であり、これまで何度も大きな津波に襲われるなどして、地域史の古文書などが散逸し、語り継がれる歴史が失われてきた地域でもあります。リサーチを担当した江尻浩二郎さんは、バラバラに記述された歴史や口伝などを再編集し、2回のツアーに分けて提供してくれました。その行動には、小さな歴史ツアー、コミュニティツーリズムの神髄があるように思います。守ろうとしなければ、歴史は失われてしまうのです。

そして、その歴史を「歴史書」として編纂するというアプローチではなく、人々の想像力を膨らませるようなアプローチで展示を試みたからこそ、多くの人たちのコミュニケーションが生まれたのだと思います。ジオラマという展示方法は古典的ではありますが、「忠実に模型で再現する」という手法ではなく、まるで絵画を描くかのような余白のあるジオラマだったからこそ、多くの人たちの対話が生まれたのかもしれません。アートプロジェクトならではの効能ではないでしょうか。

地域の歴史を、いかに保存し、守り、後世に伝えていくのか。こうした民間の有志たちの保護・伝承活動の重要性を感じさせるとともに、時代にあった展示方法やデザイン、伝え方が問われているのだと思います。手作り感のジオラマが、かえって想像力をかき立ててくれ、まさに「カルチャーショック」の雷が脳天に落ちるような、それでいてじわじわと心に残るような、リサーチ力と美術の構成力がガチっとハマった素晴らしい展示でした。

なお、このジオラマ、今後も、この潮目文化共創プログラムの企画のなかで展示される予定になっています。ジオラマ展示の鑑賞を通じて、小名浜の歴史を知るとともに、日常のなかに隠れた歴史の「ひだ」のようなものを見分ける目を養いたいものです。予定が決まりましたら、またこちらのサイトで紹介させいて頂きます。

 

レポート:潮目文化アーカイブ班 小松 理虔